迷走する帝国 ローマ人の物語XII(2003年)  【書評】

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イタリア在住の歴史作家塩野七生による歴史小説。ローマ史版の三国志や水滸伝みたいなものですが、史実への忠実度は高く、三国志と違って「孔明が超能力で何かする」的なファンタジー的なネタはなしで進行します。カエサルや初代皇帝アウグストゥスというローマ帝国初期の栄光のあとの、混乱期。いわゆる「3世紀の危機」の時代を扱っています。セウェルス朝後半及び軍人皇帝時代のローマ帝国の物語です。地味な時代ですが、面白い所です。

現代では外国人への参政権をどこまで認めるかといった、外国人参政権(国政・地方)が議論になることがあります。海外移住を考えたことがある人は「移住先の市民権をとれるか?永住権はとれるのか?」といった話が具体的な悩みとして出てくると思います。


国家という巨大なコミュニティへの「参加権」をどうマネジメントすべきか、これはローマ帝国の事例が大いに参考になるでしょう。

「参加する権利」はみんなに無条件に配れば良いというものでもありません。条件つきで配ることで、マネジメントをしていくべきでしょう。全員を平等にするというのは、逆に不平等な考え方になります。例えば、会社組織で部長と平社員が同じ給料で同じ待遇だったらどうでしょうか、部長の人は平社員の仕事しかしなくなる可能性があります。上位の地位は待遇が厚くなるから、責任が重くなってもやりたいという動機があるわけです。

かつてのローマ帝国は「国家に功あり」なローマ市民ではない属州人に対しても恩賞として「ローマ市民権」を与えてきました。先祖代々ローマ人である人にもそれ以外の人にも「ローマ市民権」を与えてきたということです。

市民権というのは権利なので義務がついてきます。

古代世界以来、「市民」の義務といえば「兵役」が伝統的なお約束です。義務があるから特権もあるのです。都市国家から世界帝国になった古代ローマの場合、市民権を徐々に拡大していきましたが、途中でやりすぎてしまった感があります。以下、おおまかにまとめます。


0.初期の共和制ローマ

市民権の内容
「兵役や納税の義務⇔政治参加の権利」

1.マリウスの軍制改革(国民皆兵の徴兵制→志願制へ)

 ※失業者→軍隊という衣食住完備の職場を提供
 ※一般市民→兵役で働き手を取られることがなくなる
 ※双方にメリット

2.初代皇帝アウグストス時代

生まれながらのローマ市民→そのままローマ市民
属州民などイタリア人以外のローマ帝国の人達
→非ローマ市民(属州民税などがある)

※ローマ市民になる方法

1.兵役
ローマ軍の兵役を勤め上げるとローマ市民になれる
(退役後は、年金や土地ももらえた。非ローマ市民に課されていた
税金も免除になった)

2.国家に貢献
国家に功績ありとなればローマ市民権が与えられる
(非ローマ市民に課されていた税金も免除になる)

ローマ市民には、非ローマ市民よりも税が低いことや、
政治参加権利、パンとサーカスの権利、などなど
様々な権利があった

※ローマ市民になるために軍隊に入ろう、
国家に貢献しよう、という動機が生まれる仕組みがあった。


3.カラカラ帝時代

イタリアと属州と含め、全ての自由民(奴隷階級でない人達)に
ローマ市民権が配られるようになった。

全員が無条件に持てるものになったので、
ローマ市民権のウマミはなくなった。

※ローマ市民という特権階級がなくなってしまったため、
軍隊は、それまで以上に人集めに苦労するように。

※ローマ市民でない層から集めていた税金がなくなったので、
国家の税収も減

つまり、一時的には皇帝は人気者になれたかもしれないが、
ローマ帝国の国力を大きく損なった。

4.その後、ローマ帝国の弱体化と地方軍閥化が進む

 

歴史の教訓から考えると、市民権はコミュニティーの会員権みたいなものなので、「特権」にしないと単なるIDになってしまい、会員側に「参加意識」が消えるのだと思います。全員に無条件に配ってしまったら、全員がわるい意味でお客さん意識になるということです。

ところで「義務を乗り越えれば権利を与える」「貢献度が高い人には栄誉を与える」的な貴族制度的な要素を取り入れれば、参加意識の高い層を確保できるので、コミュニティーの運営側としては長く恩恵を受け取る事が出来ます。

もし現代日本で外国人参政権的なものをやるのなら「国家に功あり」を条件にすべきでしょう。

例えば自衛隊に3年間奉職するなど、「国家への忠誠」を行動で示すことを要求すべきです。宗教的に殺人の可能性があることはできないという人や体力的にきつい人は、事務作業やボランティアなど、できることをやって頂けばいいだけです。もしくは集団行動は不得意だけど商売は得意という人なら、普通に商売をがんばっていただいて「高額納税を一定期間していただく」という形式でもいいと思います。

国家レベルではなく勉強グループ・部活などのレベルに落として考えてみると分かりやすいと思いますが、ある程度は「運営側としての参加意識が高い層」を確保できないとコミュニティ全体の崩壊につながります。そこで考えると、「高貴の義務」的な意識のあるエリート層を育てておくことは非常に重要です。

 

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