失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫) 【書評】

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先の大戦における日本の失敗について、組織論的な分析を加えた名著。日本の近現代史についての歴史本で「仕事に役に立つ一冊を」という人にはポンと押したい本です。読んでみると、「1940年代の軍官僚と同じ失敗を繰り返す愚か者がいかに多いか」ということに失笑することでしょう。

歴史を学ぶということは 「人間はいかに可能性に溢れた素晴らしい存在か」という希望を学ぶことでもありますが、同時に「人間の愚かさは簡単に変わるものではない 」というアキラメを学ぶということでもあります。

大昔から「近ごろの若い者はケシカランと言われていた」という話はよく知られていますが、国家単位でも同じような失敗を繰り返しているのはよくある話です。


「事件は現場でおきてるんだ」という言葉が話題になることがあります。現場主義というのは日本型組織の優秀さの一つです。ただ、それも行きすぎると現場の暴走を産みます。新しいアイディアは現場の声だけ聞いても出てこないのです。消費者は自分の本当に欲しいものを言葉にできないからです。

新兵器開発は現代の企業の新製品開発と同じような話なのですが、現場からのフィードバックをより高い視点で見直して、「現場の人間が認識していないけど重要なこと」を抽出してこなくてはいけません。「お客様の声から作ります」というのは、キッカケとしてはいいのですが、「言われたものをそのまま作ります」であっては「お客様が喜ぶもの」は作れないのです。


私が先の大戦に関して、非常に重要な歴史の教訓だと思っていることの一つは「成功パターンは呪い化しやすい」ということです。一回大きな成功体験をすると、それは「勝ちパターン」として定着しやすいのですが、成功体験が逆にマイナスの結果を生むことがあるということです。


帝国海軍(旧日本海軍)は、日露戦争で古今無双の大勝利をおさめました。日本海海戦で、対馬沖でロシアのバルチック艦隊と戦艦同士の艦隊決戦を行い、完全勝利をおさめたのです。(横須賀にはこの時の旗艦三笠が記念艦として保存されていて、見学することができます。)


ところで、日本海海戦で完勝したゆえに、日本海軍は 「日本海海戦よもう一度」という発想で凝り固まってしまいます。具体的には「戦艦同士の艦隊決戦」に最適化した組織や編成をつくりあげていくわけです。当時の世界で、世界最大の戦艦だった大和や武蔵を建造したのは良い例です。

ところで、次の戦いである第二次大戦に日本が参戦した時、最初に帝国海軍がやったのは航空機によるハワイ奇襲とフィリピン奇襲でした。これによって「戦艦の時代から航空機の時代へ」という風に戦いのルールが変化していきます。

帝国海軍は自分で時代の変化の幕を引いておきながら、その編成は戦艦重視のままでした。結果、少ない資源を航空機や航空機運搬船である空母などに割り振る量が減ってしまい、戦力の低下を招いてしまっています。


成功体験は捨てなくてはいけない、これは先の大戦の貴重な教訓の一つなのです。

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サイトの運営方針は「自分とは何か」「日本文明とは何か」という二つの問いへのインスピレーションを刺激する話をすること。人生で大切にしたい事は「遊び・美しさ・使命・勝利・自由」。 なお、日本的精神文化のコアの一つは「最小の力で最大の成果」だと思う。例えば「枯山水(禅寺の石庭)の抽象的アート表現」などは、良い例。