江戸しぐさという「歴史的にはありえない、江戸時代をネタにしたマナー集」が、いかに学校教育レベルにまで拡大してしまったのかを分析した本です。いわゆる慰安婦の嘘などもそうですが、「デマはなぜ社会規模で拡大するのか」ということに関心がある人にも興味深い本になる可能性があります。
一応、江戸しぐさがいかに歴史という視点でみるといかにいいい加減かという説明からしましょう。
例えば、「時泥棒は十両の罪」というものが江戸しぐさの世界にはあるそうです。
「今風に言えば、遅刻厳禁」みたいな話ですが、この発想は現実の江戸時代にはありえません。なぜなら「日本人は時間に正確」というのは昭和の話であって江戸の話ではありません。そもそも、ケータイも腕時計もTVもラジオもネットもなく「時計」を持っている人などほんの一握りな時代に「時間を厳守せよ」という道徳が生まれるわけもないのです。
「正確な歴史なんてエリートと専門家だけが理解していればいいじゃないか。他の分野の人間からしたら、おもしろければそれでいいんだよ!」という意見もあるかもしれません。
ただ、実は事実は小説以上に面白くて魅力的です。
例えば、戦国時代の女性は「処女の純潔など少しも重んじなかった」とか、昔の将軍は「正々堂々戦うという発想ではなく、勝つことが正義という発想のほうが主流だった」とか、「江戸~明治の盆踊りは、ナンパ目的クラブと似たようなものだった」とか、歴史話で知らない人には 「びっくり」なことってたくさんあります。
歴史というのは、現代とは違う常識の世界の話を聞くからこそ面白くてタメになるいい話になるのです。異世界の話だからこそ「人間的成長」や 「人間としての器を大きくする」といった人間としての偉大さを養う教育効果を期待できるのです。