暗殺教室 【書評 | 感想】

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1年後に地球を滅ぼす超生物、殺(ころ)せんせーは、生徒に危害を加えないことを条件に、なぜか椚ヶ丘(くぬぎがおか)中学校3年E組の担任に就任する。殺(ころ)先生の暗殺というミッションを与えられたE組の落ちこぼれの生徒達は、担任&暗殺のターゲットである殺(ころ)先生との交流を通して人間的に大きく成長していく。

単に話題性だけでアニメを見たのがキッカケでマンガを手に取ったのですが、このマンガはすごいです。一応テーマは暗殺ですが、描かれるドラマは暗殺を通した3年E組28人の人間的成長です。

バトルロワイヤルのような「戦いの描き出す心の闇」みたいなものを期待すると、そこまでのダークなシーンは少ないのでがっかりするかもしれません。だがしかし、このマンガ、教育や人間の可能性を広げるということに興味がある人にとっては「聖典」になる可能性すらあるでしょう。

教室のテーマは暗殺なのですが、言ってることは孔子やキリストやシャカの時代からの王道です。

マンガの中からいくつかの名言を紹介しましょう。

「先生だって学習するんです。先生が日々成長せずして・・・どうして生徒に教える事ができるでしょうか。」
(殺先生の名言。イトナ君との二度目の対戦で。対戦相手が予想外に強くなっていることに驚くイトナ君に対して)

「良い教師は迷うものです。本当に自分はベストの答えを教えているのか、内心は散々迷いながら・・・生徒の前では毅然として教えなくてはいけない。決して迷いを悟られぬよう堂々とね。だからこそカッコいいんです。先生っていう職業は。」
(殺先生の名言。同僚の烏丸先生に対して)

「戦って勝たなくたって良い、殺せば勝ちなんだ」
(渚の名言。生徒を公開リンチにしようとするイカれた体育教師とのナイフ対決にて。)

「勉強も暗殺も同じ事だ、基礎は身につけるほど役に立つ」
(烏丸先生の名言。訓練の有効性を疑う生徒に対して。)

内容としては王道的な教育と成長のストーリーがそろっています。渚君の「殺せば勝ち」は「相手の土俵で戦わない。自分の勝てる土俵で戦うことが大事」という話の中での名言です。学園もののコメディーというライトな世界を壊さないままで、かなり深い話までさらっと描かれているのもすごい部分です。

あとこの作品のこだわりを感じたのは、神は細部に宿るとばかりに、試験問題などのディティールにはしっかりこだわっている点です。アニメ版はZ会が監修をしていましたが、マンガ内に登場する試験問題も良い感じに作ってあります。例えば、マンガ内の扉絵などに登場する試験問題もこんな感じで遊んであります。

<漢文小テスト(八巻の目次に登場するものを雰囲気だけ再現)>

業問 渚與寺坂也孰賢 
子曰 渚也過 寺坂也不及
曰 然則師愈與
子曰 過猶不及

カルマ「寺坂と渚とどっちがすぐれている」
殺せんせー曰く「寺坂は過ぎている、渚は(  )」
カルマ「じゃあ、寺坂ってこと?」
殺センセー「いや、過ぎたるはなお及ばざるが如し」

※ここでの子は春秋時代の思想家の殺子のこと
※業(カルマ)、殺子の弟子。要領がよく中二病要素がある。
※渚(なぎさ)、殺子の弟子。おとなしい性格であった
※寺坂(てらさか)、殺子の弟子。積極的な性格であった

このネタですが、元ネタは、論語の有名な「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」という名言です。

「子貢問 師與商也孰賢
子曰 師也過 商也不及
曰 然則師愈與
子曰 過猶不及」
(「論語」 先進十五)

※子貢=孔子の弟子、要領がよく商才や弁舌に優れる
※子=先生、この場合は孔子のこと

要するに、論語をパロって孔子の弟子の名前と暗殺教室のキャラクターの名前を入れ変えてあるのですが、良い感じにはまっています。

暗殺教室ですが、学校時代が辛かった人も悲しかった人も、今学生の人もそうでない人も、「人を育てる」ことや「人の可能性を広げること」に喜びや憧れを感じたことがある人はきっと楽しめると思います。この作品、マンガ・アニメ・実写映画版と、ありますが、意外にどれから見ても楽しめるようになっています。

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About Author

サイトの運営方針は「自分とは何か」「日本文明とは何か」という二つの問いへのインスピレーションを刺激する話をすること。人生で大切にしたい事は「遊び・美しさ・使命・勝利・自由」。 なお、日本的精神文化のコアの一つは「最小の力で最大の成果」だと思う。例えば「枯山水(禅寺の石庭)の抽象的アート表現」などは、良い例。

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