典型的な「違う世界で育った少年と少女が出会い、友達から恋人へと関係を深めていく」というストーリーです。SFの楽しみは「異世界という常識が違う世界だからこその人間関係や歴史観」を見せてくれる所ですが、この物語の世界は遺伝子操作の技術が現実化した世界になっています。
トールキンが指輪物語(ロードオブザリング)でエルフ語を作ったのと同様に、アーヴ語という「異世界の言語」が創造されているのもこの物語世界の魅力のひとつです。エルフ語(トールキン)はウェールズ語をベースに組まれましたが、アーヴ語は日本語ベースで文法が組まれています。例えば「ヤマタノオロチ→ガフトノーシュ」「アマテラス→アブリアル 」などとなっています。
ガンダムとか銀河英雄伝説とかスタートレックとかスターウォーズとか、いわゆるSF作品で楽しい思いをしたことがある人は、楽しめる要素の多い作品だと思います。
SF映画やSF小説の秘かな楽しみのひとつは、「近未来の現実社会で起きるかもしれない問題を先取りして提示してくれること」です。
例えば、この作品世界では「人間に対する遺伝子操作」が普通に行われている世界になっています。少し前は「SFの中だけ」の問題でしたが「人間の遺伝子をデザインするということをどう考えるか?」これは21世紀の地球でも既に現実となってきている問題です。一神教のキリスト教社会では人は「神が創造した」という世界観になっているので「人間が人間をデザインする」ということに対して倫理・宗教・政治の分野での抵抗があるようです。
もし仮に「遺伝子を自由にデザインすることができるようになったら、どうしますか?」という話です。危険性やリスクというものがなくなった時に「自分の子供の遺伝子を調整しますか?」という話になります。
これは、「いい悪い」という絶対的な答えなどは存在しない問題です。
一昔前の人間なら「そんなのはえらい人が決めればいいんだ」と沈黙することもできたでしょう。ただ、技術があまりに身近になってくると「自分事」になってきます。歯科の再生医療の世界が良い例ですが、少し前は「SF世界の技術」だったものが「いつの間にか実用化」してしまうのはよくある話です。
そういう問題を考えるキッカケにもなるので、純粋に楽しい以外にも隠れたオモシロサがあるのが硬派SFの面白い所です。