自立する国家へ 【書評 | 評論】

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外交官出身と自衛隊出身の論客による安全保障論。内容としては一般論レベルなので、知識がない一般人が現代史や国防の基礎知識をえるために重宝する本です。ただ、読んだ後に「専門家の意見は分かった。で?自分は一人の日本人としてどう考えるんだ?」という読後感に導かれる真面目な本なので、寝る前の睡眠導入剤としてはおすすめしません。

例えば、最近でこそ「核武装と聞いたとたんに思考停止になる」みたいな人は減りましたが、一時期の日本では「核武装は議論するだけでタブーである」と扱われるような風潮がありました。これは非核三原則を出した「佐藤内閣以降の現象」とこの本では分析されています。

第二次大戦の敗戦によって日本は米軍の占領統治下におかれるわけですが、サンフランシスコ平和条約での独立回復後「米軍に依存し続けるのはヤバイ」と考える人達が当然動きだすわけです。

米軍に国防を依存したままだと、「アメリカ様の言う事には、どんな理不尽なことでも逆らえない」という状態が永遠に続くことになるからです。実際占領下の日本では、米軍による悪行が色々と行われていましたので、当時の人はよりリアルに 「アメリカから早く自立しないとヤバイ」という認識があったのでしょう。

佐藤内閣は後に「非核三原則」を発表して核武装を公式には否定しましたが、もともとは「核兵器を持つ」方向性で検討していたようです。現代の世界情勢で「国防」を考えれば、アメリカ・ロシア・中華人民共和国、と核兵器大国に周囲をぐるりと囲まれている日本は、核兵器の保有を当然検討する必要があります。

もちろん、核兵器さえあればいいとか、日米安保さえ破棄すればいい、という単純な解がある問題ではありません。

例えば、自衛隊が米軍の補助部隊的な編成になっているままでいきなり日米安保を破棄したら、米軍基地はなくせるでしょうが、隣国の人民解放軍あたりが(チベットを占領した時のように)大喜びで占領軍として乗り込んでくる可能性があります。そして、現状の自衛隊は核戦力や攻撃戦力が米軍頼りなので、自衛隊単独ではまともな戦闘ができない可能性が高いです。核兵器を東京に一発落とされたら、その時点で降伏交渉が始まる恐れがあります。

既存メディアは「日米安保体制バンザイ派」が仕切っているのか、左翼の基地反対派で「国防を強化して、米軍のいらない日本にしよう」という常識的な自立路線を主張する人の声はあまりメディアにのらないようです。また、右翼や保守側の「国防強化&自立」という自立論もまだまだ一般のメディアには乗りにくいようです。

ただ、日本人が自由に自分らしく生きられる社会を作るためには「日本国が米軍に国防を依存しているので、米国に強く要求されたらYESしか言えない。」という現状は決して望ましいものではありません。「米国国内では規制されている農薬が、米国から日本向けの輸出食品には使われる」なんてブラックな話がたまち聞かれますが、他国に国防を依存するということは要するにそういうことです。ずっとそんな状態でいいんですかという話です。

「何か一つぶっ壊せば、バラ色になる」ような単純な話ではないですが、それでも一つづつ問題を潰していくことは大切だと思います。

なお、 「その気になれば日本はすぐにも核武装可能」という発言がたまに政治家や有識者の間から出てきます。これは非常に重要なことで、実際にどこまで準備ができているかはさておき「日本人は必要とあればあっという間に軍事強国を作り上げるよ」というメッセージを出すのは重要なことです。

「あいつは、ひどいことをされても何もできない相手だ」とナメられると、個人でも国家でもろくなことがありません。拉致問題でもイジメ問題でも諸悪の根源は力の不足にあります。「やられたらやりかえす。百倍返しだ!」な相手だと認識させることは非常に重要です。

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サイトの運営方針は「自分とは何か」「日本文明とは何か」という二つの問いへのインスピレーションを刺激する話をすること。人生で大切にしたい事は「遊び・美しさ・使命・勝利・自由」。 なお、日本的精神文化のコアの一つは「最小の力で最大の成果」だと思う。例えば「枯山水(禅寺の石庭)の抽象的アート表現」などは、良い例。

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